言語学習コラム(「はい」「いいえ」という概念)

13/02/2021

「はい」と「いいえ」

「はい」と「いいえ」。
実際はあまり使いませんが、言語学習の基本として習いますね。

英語であれば「Yes」「No」。
ドイツ語では…「Ja」「Nein」ですが「Doch」もありますね。
韓国語であれば「네」「아니요」が一般的でしょうか、他にも敬語などがありますね。
中国語では…。

「はい」と「いいえ」、確かに基本なのですが、よくよく考えると単純なようでいて奥深く、各言語の特徴が見えてきます。

否定疑問文の答え方

中学生で英語を習い、否定疑問文の答え方で混乱した人も多いでしょう。

Aren’t you busy?
Yes, I’m busy. / No, I’m not busy.
忙しくないですか?
いいえ、忙しいです。 / はい、忙しくありません。

「はい」「いいえ」を「Yes」「No」と覚えていた人は混乱しましたね。
英語で「Yes」でも日本語では「いいえ」に、「No」でも「はい」になる場合がありました。

各国語の「はい」「いいえ」の概念

日本語

日本語の「はい」「いいえ」の概念は基本的に以下のようなものでしょう。

  • はい…相手の意見・話を肯定します
  • いいえ…相手の意見・話を否定します

英語

英語の「Yes」「No」は大きく違う概念でした。

  • Yes…私の意見・話は肯定文です
  • No…私の意見・話は否定文です

ドイツ語


ドイツ語では「Ja」「Nein」の他に「Doch」もありました。
ドイツ語の「Ja」「Nein」「Doch」の概念は基本的に以下のようなものでしょう。

Ja…相手の意見・話を肯定します
Nein…私の意見・話は否定文です
Doch…相手の否定的な意見・話を再否定します

Bist du beschäftigt?
Ja, ich bin beschäftigt. / Nein, ich bin nicht beschäftigt.
Bist du nicht beschäftigt?
Doch, ich bin beschäftigt. / Nein, ich bin nicht beschäftigt.

表面上は日本語の概念と似ているようですが、考え始めると結構違います。
冗談ではこの他に「Jain」という「はいともいいえとも言えない」という曖昧な答え方もあります。

韓国語

韓国語の「はい」「いいえ」は敬語などがあり、細かく見ていくと日本語との違いが浮き出てくるので面白いと思います。
韓国語の敬語は日本語の敬語とは考え方が異なっており、年齢差によって使い分ける敬語(所謂尊敬語)の他に、通常の会話で使われる敬語(所謂丁寧語)があります。
この丁寧語の語尾は「~요」「~ㅂ니다」と二種類あり、その使い分けは「~요」は打ち解けた感じ、「~ㅂ니다」は畏まった感じなどと言われ、使うシーンは異なっているのですが、教科書でもいろいろ説明があるものの、実はこの違いを何と呼べばよいのか、決まった名前がない…のが現状なのかと思います。
格式体・非格式体、ㅂ니다体・요体、합니다体・해요体など教科書によってマチマチです。
「はい」はともかくとして「いいえ」にはこの格式体・非格式体などが絡んでくるところが「敬語など」と書いた所以です。

さて、韓国語の「はい」「いいえ」は「네」「아니요」が一般的と書きました。

「네」はより丁寧な表現では「예」になります。
「아니요」の格式体は「아닙니다」なのですが「아닙니다」には「いいえ」の他に「違います」という意味でよく使われます。
非格式体の「違います」は「아니에요」です。
「아닙니다」と「아니에요」の原形は「아니다」で、主に「~ではない、~とは違う」という意味です。
「아니다」の反対語は「이다」であり、これは「~です」と訳されます。
「아니요」の原形という話は聞かないので「네」や「예」と合わせて特別な形なのでしょう。

이다 <-> 아니다
    -> 아니에요
    -> 아닙니다 -> 아니요 <-> 네 / 예

つまり、「아니다」の格式体は「아닙니다」であり、非格式体は「아니에요」であるものの「いいえ」の意味に限っては「아니요」へと変化が分岐している、と整理できるかと思います(語源として正しいかは不明です)。

ややこしくなりましたが、この「아니요」「아니에요」「아닙니다」の語感と意味の距離が中々面白いところで、韓国語では「いいえ」と「違います」の概念がかなり近いことがわかります。
ちなみに「違います」と「間違えています」は日本語では結構近い概念の言葉だと思いますが、韓国語では全く別の言葉になります。

바빠요? / 바쁩니까?
네, 바빠요. / 예, 바쁩니다.
아니요, 바쁘지 않아요. / 아닙니다, 바쁘지 않습니다.

また否定疑問文に対しては「네」や「아니요」の他に「大丈夫です」を表す「괜찮아요」「괜찮습니다」を用いる傾向が強いように思います。

바쁘지 않아요? / 바쁘지 않습니까?
아니요, 바빠요. / 아닙니다, 바쁩니다.
네, 바쁘지 않아요. / 네, 바쁘지 않습니다.

中国語

以前中国語の学習を始めたばかりの頃に、台湾人の友人に中国語の「はい」「いいえ」は何か尋ねたところ「中国語にはそういう固定したものはない」と言われて驚いた記憶があります。

你不忙嗎?
很忙. / 不忙.

中国語の学習を進めた後に知ったことですが、中国語では「はい」「いいえ」を動詞や形容詞で直接答えることが多いため、固定した「はい」「いいえ」はない、という答え方がやはり正しいのかと思います。

一般的には「對」と「不」または「是」と「不」とも考えられますが、聞かれ方により答え方が異なりますので、やはり固定した「はい」「いいえ」ではありません。

それでも否定の時は「不」が使えそうな気がしますが、特に台湾の口語では「不」ではなく「沒有」も多用されるため何とも言えません…。

你不忙, 對不對?
對, 不忙. / (不對,) 很忙.

你是不是很忙?
是很忙. / 不是很忙.

你是不是不忙?
對/是, 不忙. / 不是, 有一點忙.

中国語には文法はないと言われる所以ですね。

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